意地悪な副社長との素直な恋の始め方


まさかの狸寝入りかと疑ったが、背後から聞こえて来るのは、規則正しい寝息だ。


(抱き枕じゃないんだから……)


しっかり身体に巻き付いている腕を解くのは、諦めた。

ジタバタして起こしてしまったら、面倒くさいことになりそうだ。
酔っ払いは、大人しく寝かせておくに限る。


(なんか……落ち着く……)


二日ぶりの温もりは、心地いい。
あっという間に眠気を誘われ、ウトウトしながら答えの出ない問いをついつい考えてしまう。

傍にいたいだけなのに、そんな単純なことが難しい。

こうしてお互いの温もりを感じていると、いろんなことがどうでもよくなってしまうのに。
結局、どんなに腹を立てても、どんなに傷ついても、朔哉を好きな気持ちはなくならないのに。

要領がよく、大人の恋の仕方を知っている大人の女性なら、自分の感情と相手の事情に折り合いをつけて、上手に関係を維持できるのだろうか?

経験不足で不器用なわたしは、自分自身のことで手一杯で、朔哉を思い遣ることができていない。

一気に気分が落ち込み、せっかく遠のきかけていた意識が戻って来る。


(だから! 考えない! 寝入りばなに思い悩むと安眠できないでしょ)


このままでは、眠れなくなってしまう。
何か、幸せな気分になれることを考えようと、オヤジな居酒屋で食べた料理のことや月子さんの麗しい姿などを思い浮かべる。

いくつもの小さな幸せを頭の中で順番に並べている途中、ふと京子ママの店で見た朔哉の笑顔を思い出した。


(朔哉……すごくいい笑顔だったな)


できることなら、毎日あんな風に笑う朔哉を見たいと思う。

心の底から、幸せそうに笑う彼をカメラに収めたい。
何十回、何百回撮っても、飽きることはないだろう。

彼を、怒らせ、悲しませ、凹ませるのではなく、笑わせたいと思う。



どうすればそれが可能になるのか、いまのわたしにはわからないけれど……。



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