意地悪な副社長との素直な恋の始め方
受け取った当初は、とても身に着ける気にはなれず、いっそ売り払ってしまおうかと思った。
けれど、事務所に顔を出すたび、花夜さんの厳しいファッションチェックを受けるうちに、服に罪はないと思い直した。
朔哉のことを完全に忘れたわけではいないし、胸の奥に穿たれた大きな穴が塞がったわけでもない。
でも、目の回るような忙しい日々が、彼のことを考え、立ち止まることを許さなかった。
幸いなことに、うっかり再会することもなかった。
もともと、朔哉とは住む世界がちがう。
大企業の副社長で御曹司である彼と、何者にもなれていないわたし。
その生活が、人生が、交わる必然性はどこにもなかった。
会おうと思わなければ、会う機会などないし、お互いが何をしているのか知ることもない。
月子さんか夕城社長に訊くという手段はあるけれど、未だ癒えない傷を自ら抉るなんて自虐趣味はなかった。
退職を申し出た際、夕城社長に体調を崩した彼の様子を確かめたのが、朔哉に自分から関わろうとした最後だ。
夕城社長いわく、体調を崩したのは芽依が言っていたような過労のせいではなく、出張先で質の悪い風邪をもらったせい。大事ないと聞いてホッとして、それからは「朔哉」の名前を口にしていない。