意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「時間切れだ。連絡する。続きはその時に」
わたしの唇を解放した朔哉は、耳にわざと唇を触れさせながら囁く。
それから、すっかり腰砕けになってしまったわたしをシゲオに引き渡した。
(な、にがどうして、こんなことになってるのか……さっぱりわからないんだけど)
久しぶりのキスの衝撃的な気持ちよさにぼーっとしながら、シゲオに支えられて、わたしが引っ張ったせいで緩んだと思われるネクタイを整える朔哉を見つめる。
(なんで、そんなフツー……じゃない?)
わたしと目が合った朔哉は、彼らしくもない、ちょっと照れたようなはにかんだ笑みをちらりと覗かせた。
(え、もう終わり? いまの顔、撮りたい……)
「ちょっとは手加減しなさいよ、朔哉。ここ、オフィスでしょ?」
シゲオの苦言に、朔哉は眉を引き上げ、尊大な態度で「手加減した」と言い返す。
そうして、あっさりほんの数分前まで激しいキスをしていたとはとても思えない、涼しげなイケメン副社長に戻ると、唖然としている花夜さんにイケメンスマイルをお見舞いした。
「驚かせてしまって、すみませんでした。魅力的な女性を前にすると、キスをせずにはいられないもので」
「……いえ……」
「申し訳ありませんが、次の予定があるので、ここで失礼させていただきます」
朔哉に見送られる形で、花夜さん、シゲオ、わたしと一緒にエレベーターへ乗り込んだ流星は、ドアが閉まった途端、「勘弁しろよ!」と叫んだ。
「なに、ノリノリでキスしてんだよ? 偲月。ちょっとは抵抗しろよ」
「だ、だって……」
「お互いに欲求不満でひと月ぶり、好きな相手とのキス。抵抗できるわけないでしょ? しかも、ソコソコじゃない本物のイケメンだし」
シゲオは、乱れたわたしの髪をまとめ直しながら擁護してくれたが、流星は否定的だ。
「あんなの、オファーを受けさせるための計算に決まってるだろ! 第一、おまえら別れたんじゃなかったのかよ?」
「何をもってして別れた、というのかによるけれど、明確に『別れよう』と言われたわけじゃないんでしょう? 偲月」
「うん……」
最後の遣り取りは、一方的に朔哉が会話を打ち切った。
それきり、話し合いらしい話し合いは、一度もしていない。
お互いの行動が、既成事実になっているだけだ。
「だったら、わたしは、計算だとは思わないわ」
「何でだよ?」
納得できないという流星に、シゲオは「場所」と言う。
「場所?」
「オフィスで、誰かに見られる可能性のある場所でキスしたからよ」