意地悪な副社長との素直な恋の始め方
家族になるために必要なこと


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ブライダルサロンをあとにして訪れた『ザ・クラシック』――リニューアル後も名称は変更しない予定――は、都心から少し離れた場所にあった。

広い敷地の中に独立した宿泊棟、かつては舞踏会も開かれたというバンケットルーム、チャペルとイングリッシュガーデンを持ち、わざわざ遠方まで出かけなくても十分都会の喧騒を忘れることができる。
蔦の絡まるレンガの壁や石畳のアプローチ、イングリッシュガーデンはほとんど手を加えていないようで、昔を知る人が違和感を抱くこともなさそうだ。


「古くて、でも古くさくはない。『大人』のホテルね」


流星は、シゲオの感想に頷いたものの、以前より敷居は低くなると反論した。


「確かに、以前の『ザ・クラシック』は、若造が泊まれるような場所じゃなかった。でも、今回のリニューアルで、もう少し気軽に利用してもらえるようになる。室料も、まあビジネスホテル並みとはいかないが、ちょっと奮発すれば手が届くくらいの価格設定にするし、ショートステイでも魅力的なプランを考えている。せっかくだから、中見てみるか?」

「そうね」

「うん、見てみたい」


つい先日、社内報で紹介するため取材に来たという流星によれば、大規模な改装は終わり、いまは設備の総点検とスタッフのトレーニングを行っているところだというので、邪魔にならない程度に、見学させてもらうことにした。

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