意地悪な副社長との素直な恋の始め方

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エントランスを中央にして、左右対称の造りである宿泊棟は二階建て。一階部分はフロント、大きな窓から庭を見つつくつろげるラウンジ、レストランや古めかしい書斎を思わせる図書室(!)といったパブリックスペースだ。

レストランは、ほかのゲストの目が気にならない半個室で、創作フレンチを提供予定。リクエストがあれば和食にも対応。朝食は、部屋で取るスタイルだ。希望すれば庭で取ることも可能で、アフタヌーンティーのサービスもあるとか。

二階は客室が占め、二十ある部屋はすべてスイート。どの部屋からも美しい庭が見渡せるよう全室南向きの大きな窓を備えている。

壁紙、天井、家具、カーテン……各部屋で内装が異なり、寝室のベッドも、天蓋付きからアルコーブ、ごくシンプルなものと様々。唯一、広いバスルームだけが共通のデザインだ。

手焼きのタイルで彩られた洗面台に、ジェットバス付きの大きな浴槽。水圧にこだわったシャワーヘッドなど、機能性とデザイン性の両方を兼ね備え、快適で、贅沢なリラックスタイムを約束する。


「はぁ……ステキすぎる。恋人と二人きりで過ごすのに、最適なベッドよ……」


シゲオは、レースで覆われた、お姫様が眠るような天蓋付きベッドが特に気に入ったらしい。


「こんなところでプロポーズなんかされた日には、即OKするわ! 永遠の愛を誓ったあとの新婚初夜にもぴったりね!」


確かに、こんなステキなホテルに泊まったら、自然とロマンチックな気分になれるのかもしれない。


(いま思えば、朔哉が取っていたホテルも、結構ランクの高いホテルだったな……)


視察を兼ねていたのもあるだろうが、朔哉はわたしを呼び出す際、基本的にビジネスホテルやラブホテルは使わなかった。
部屋も、その時の空室状況にもよるだろうが、最低でもスーペリア、ジュニアスイートかそれに準ずる部屋を利用していた……と思う。

でも、贅沢な空間を楽しむ心の余裕なんてないわたしは、ゆっくりくつろいだこともなければ、朝まで滞在したこともない。


(もしも、ちゃんとホテルでの滞在を満喫していたら……)


逃げ出したりせず、朝まで過ごしていたら。

お互いに、寝起きの無防備な、何も取り繕えない状態で顔を合わせていたら。

とっくの昔に素直になれていたのかもしれない。


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