意地悪な副社長との素直な恋の始め方
でも、朔哉がそんな顔を見せたのは一瞬のことで、すぐに何の感情も読みとれない無表情になる。
「オファーを引き受けてくれて、心から感謝する。今後の撮影スケジュール、来週のプレオープンなどの予定については、流星が窓口になって連絡する。何かあれば、遠慮なく彼に相談を」
「え……?」
戸惑うわたしに、朔哉は彼らしくもない自嘲の笑みを浮かべた。
「適材適所。そのポストに最適な人間を配置し、不要もしくはトラブルの原因となるリスクは極力排除する。それが、円滑に業務を進めるための鉄則だ」
(ちょっと待ってよ……リスクって、トラブルの原因って……朔哉をそんな風に思ってなんか……)
「おい、丸投げする気かよ?」
流星が剣呑な表情で問い返すが、朔哉は取り合おうとしなかった。
「事務所宛に契約書を送る。望月所長と目を通し、納得したらサインして送り返してほしい。質問や疑問があれば、それも流星に」
さっきまでの怒りはどこへ行ったのか。
やけに冷静で、落ち着いた朔哉の様子に、彼がわたしとの間に分厚く高い壁を打ち建てたのを感じた。
「試着した写真でも十分美しかったが、プレオープンでドレス姿を見られるのを楽しみにしている」
身を翻した朔哉の背はあっという間に遠ざかり、チャペルのドアの向こう、明るい日差しの中へ消えようとしている。
「あの写真、効果ありすぎたか」
「そうかもねぇ。打たれ弱いから。イケメンは……」
流星とシゲオが何やらぼそぼそと言い合っているのが聞こえたが、いまはそれどころじゃない。
このまま朔哉を行かせてしまったら、もう二度と仲直りできないかもしれない――そう思ったら、叫んでいた。
「朔哉っ!」