意地悪な副社長との素直な恋の始め方
どうすればいいのかわからず、俯くわたしを問い詰めても無駄と悟ったのだろう。
朔哉は、大きく息を吐くと落ち着いた口調で訊ねた。
「個人的な感情はともかくとして、流星と予行練習をしているということは、今回のオファーを受けることにしたと考えても?」
「う、ん……やりたい、と思う。見せてもらった『Claire』のドレスは本当にステキだったし、わたしがその魅力を伝えられたら嬉しい。でも、」
「でも?」
「わたしは、モデルとしてはまだまだ駆け出し。人前で何かするのも得意じゃないし、模擬挙式とか模擬披露宴で花嫁役を務められる自信ない。もしかしたら、とんでもない失敗をするかもしれない。それで、プロジェクトを台無しに……してしまうかもしれない」
いくら隠しても見抜かれてしまうのはわかっているから、不安も期待もそのままに、何度も覗いたことのある黒い瞳をじっと見つめる。
わたしの性格と経験から判断すれば、成功する可能性より、失敗する可能性の方が断然高いのは朔哉だってわかっているはずだ。
熱意だけで何とかなるほど、仕事は甘くない。
朔哉は、わたしを真っ向から見つめ返し、傲慢さと自信の滲む挑発的な表情で断言した。
「すべての責任は、このプロジェクトを企画した俺が負う。偲月が心配することは、何もない」
「でも! ドレスを踏んづけて転んだり、誓いの言葉で噛んだり、披露宴で酔っ払って、ウエディングケーキに突っ込んだり……するかも?」
「その程度は想定の範囲内だ。ちなみに、ウエディングケーキはマカロンタワーだ。突っ込んだとしてもせいぜい床にマカロンが散らばる程度で、ドレスへの被害は最小限に抑えられる」
マカロンタワーのウエディングケーキはちょっと嬉しいかも、と思いかけ、その前のひと言が聞き捨てならないことに気づく。
「ちょ、想定の範囲内って、どういうこと!?」
「トラブルやハプニングは、どんなに完璧な計画を立てても起こり得る。それをプラスに変えられるかどうかで、スタッフの真価が決まる。オープニングスタッフには、選りすぐり、百戦錬磨のメンバーを揃えているから、大丈夫だ」
「……なら、いいけど……」
「今回披露するドレスも、前回のウエディングドレスも、すべて偲月のために作られたものだ。偲月以上に着こなせるモデルはいない。だから、自信を持て」
そう言って朔哉は、ふわりと笑った。
柔らかい笑みはとても自然で、嘘でもお世辞でもないのだとわかる。