意地悪な副社長との素直な恋の始め方
一瞬、何を言われているのかわからなかったが、外にいるのだろう。
電話の向こうから、ひとの話声がざわめきとなって聞こえて来る。
「流星さん、いまどこにいるのっ!?」
いくら花婿は花嫁より支度に時間が掛からないとはいえ、模擬挙式三十分前に会場に着いていないのは、マズイだろう。
『誰か、ほかの男を探してくれ』
「え」
『無理なんだ』
「いやいや、そんなこと言われてもっ!」
『悪い』
「流星さん……あの、大丈夫? 具合が悪いとか……」
いつも歯切れのいい流星とはちがう様子に、不安が湧き起こる。
『いや、大丈夫だ』
「でも!」
『本当に、悪い。でも、すぐそこに、俺の代わりができるヤツがいるだろ?』
「だ、誰っ!?」
『……じゃあな』
「ちょっ……」
(切れた……ええと……どう、どういうこと?)
茫然とスマホを握りしめ、頭の中でいま聞いた言葉を整理しているとシゲオの声がした。
「どうしたのよ、偲月。まるで、花婿に逃げられた花嫁みたいな顔してるわよ?」
「…………」
からかいの笑みを浮かべていたシゲオは、反応しないわたしを見て、笑みを消した。
「まさか、図星?」
逃げられた、わけではないが、ほかの男を探せと言うことは、そういうことだろう。
「……うん」
その場に、恐ろしいくらいの沈黙が広がる。
「もしかして、さっきの電話。流星さんからだったの?」
「芽依」
シゲオの背後にいて気づかなかったが、そこにはインカムを着けたブラックスーツ姿の芽依がいた。
「ついさっきまで控室にいたんだけど、誰かから電話が架かってきて、出て行ったの」
「ハジメは何て言ったのよ?」
「わたしとは結婚できない、ほかの男を探せ、代わりができるヤツがすぐ傍に居るって……」
わたし、芽依、ブライダルサロンのスタッフ。三人の視線が向かった先は……シゲオだ。
わたしたちの期待のまなざしを受けたシゲオは、ひと言。
「無理」