意地悪な副社長との素直な恋の始め方
問い返す暇はなかった。
白手袋をはめた芽依が「開けます」と告げ、大きな木の扉がゆっくりと開いて行く。
まっすぐに伸びた通路の先には、ステンドグラス、祭壇、そして黒のタキシードを着た花婿がいる。
黒髪。すらりと伸びた脚は長く、姿勢がとてもいい。
振り返った彼のフラワーホールには、わたしが手にしているブーケに使われているのと同じ白い薔薇が飾られているようだ、とそんなことを確認し、一歩目を踏み出そうとして固まった。
(……朔哉?)
「偲月ちゃん!」
芽依に小声で呼ばれ、ハッとして、流星監督と歩調を合わせて歩きだしたものの、目は祭壇の前で待つ朔哉に釘付けだ。
(なんで? いや、確かに流星さんよりイケメンだし、今日の流れを一番よくわかっているし、最適な代役だけど……)
頭の中が疑問で埋め尽くされたまま、バージンロードを歩く。
最前列には、月子さんと夕城社長、通路を挟んで母の姿まであり、さらに疑問が増えた。
口を開けたらクエスチョンマークがそのまま出てきそうだ。
「大事な娘をよろしく頼むよ」
「はい」
流星監督の手から、朔哉の手に引き渡され、本物らしい牧師の前に並んで立つ。
ありがたい(?)お話は、右の耳から左の耳へ抜け、朔哉が「誓います」と言うのを聞いてさすがに我に返った。
無事、ではないが、噛むこともつっかえることもなく「誓います」と宣誓し、ブーケを渡す。
レースのグローブはフィンガーレス、そのまま指輪を嵌められるデザインだ。
指輪のサイズを訊かれた記憶はないが、薬指に収まったシンプルなプラチナのリングはぴったり。
朔哉も、代役ながら流星と指輪のサイズが同じだったのか、こちらもぴったりだ。
ここまでくれば、あと少し。
(指輪の交換のあとは……)