意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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花婿が行方不明となってから、約三十分後。
控室にわたしを迎えに来た芽依は、「花婿役は無事見つかったよ。それも、超イケメン!」とサムズアップして見せた。
ホッとしてやって来たチャペルの前室で待っていたのは、予想外の人物。
花嫁の父親役は、スタッフの誰かが務めるのだろうと思っていたら、なんと流星監督だった。
「いやぁ、まさかバージンロードを娘と歩くなんて……想像したこともなかったよ。何だか緊張するねぇ」
それはこっちの台詞だ。
有名監督とレッドカーペットならぬ、バージンロードを歩くなんて、大女優でも滅多にできない経験だろう。
「は、はぁ……あの、よろしくお願いします」
「リラックス、リラックス。花嫁は、花婿のことだけ考えていればいいんだから。撮影は、プロがいいようにいい場面を撮るし」
「はい」
流星監督の腕に手を重ね、入場を待つ。
「月子さんに紹介された時も思ったけれど……やっぱり、紗月さんに似ているね」
「え?」
彼の口から聞くとは思わなかった母の名に、驚いた。
「昔、一度だけ、一緒に仕事をしたことがあるんだよ。と言っても、あまりの下手さ加減に激怒して、その場でクビを言い渡して、大泣きさせちゃったんだけど。あの頃の僕は、ほんと思いやりのかけらもない男だった」
「……そうですか」
月子さんも言っていたが、母の演技は壊滅的だったのだろう。
「それに、ロクデナシでもあったね。妻を泣かせただけじゃなく、いろんな女性を泣かせていたから」
流星監督の過去は、月子さんから聞いている。
でも、わたしにそれを責める資格はないし、そのつもりもない。
そう示すために、わざと茶化して問い返す。
「それは……自慢ですか?」
「いや、後悔だよ。こんなにキレイな娘がいると知らないまま、二十年以上も放置していたことへの」
「……え」