意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そういう運はないんです。くじ引きとかでイヤな役回りを決めるときは、一番に引いて真っ先に当てちゃいますけど」
正直に告白すれば、福山さんは再びゲラゲラ笑い出す。
「あはは!」
「恋愛運もダメダメですし」
「美人さんなのに、モテないの?」
「モテますよ。ロクデナシ限定ですが」
にっこり笑ってそう答えた脳裏に、元セフレの顔が浮かぶ。
スペックだけを見ればロクデナシとは言えないが、「理想の恋人」には程遠い。
「あはは! いいねぇ。僕、シーナちゃんみたいにサバサバした子、好きだよ。新人とは思えないほど、ホステス役が板に付いてるし」
「ありがとうございます」
我ながら、外見だけは店の雰囲気に馴染んでいると思う。
初仕事を前に、シゲオの手によって巻いて、盛って、きれいにまとめられた髪と普段の二倍は濃い化粧を施された自分の姿を鏡で見ても、まるで違和感がなかった。
シーナという源氏名もしっくりくると、京子ママやほかのスタッフも口々に言うくらい、ハマっている。
「あー、久しぶりだ。こんなに笑ったのは……お、やっと来たか!」
笑い転げて涙まで流していた福山さんが、不意に大きく伸び上がって手を振った。
連れがいらっしゃったらしい。
京子ママの目配せを受け、フロア全体をケアしているウエイターに合図をし、おしぼりやグラスなどを受け取る。
背後で、ソファーに腰を下ろした男性が深々と溜息を吐くのが聞こえた。
「遅くなってすまん」
「楽しく過ごしていたから気にすんな。で、いとしの彼女には会えたのか?」
「いや、部屋にいなかった」
「連絡していなかったのか?」
「事前に連絡したら逃げられるし……たぶん、着拒されている」
「は? 逃げられる……着拒って、おまえ、そりゃ避けられてるんじゃなく、嫌われてるんじゃないのか?」
「ちょっと言い過ぎて、怒らせただけだ」
「おまえなぁ……ちょっと怒ったくらいで、着拒はしないだろ。見切りをつけられるようなこと、言ったんじゃないのか? 素直じゃないのもいい加減にしろよ。何年も追いかけ回しているくせに」
「追いかけ回してなんかいない」
「むこうから連絡してくるのを待ちきれなくて、毎回自分から連絡して、無理やり会う約束を取り付けているくせに? 毎回、置き去りにされてヘコむくせに?」
「うるさい……」
「こちらどう……」
その気がない相手を追いかけ回すなんて、もしかしてストーカー? と思いつつ、ウエイターが持ってきてくれたおしぼりを差し出そうとして、固まった。
(え……)
己の引きの良さが恨めしい。
(う、う、嘘でしょぉ……なんで、初日の初っ端から……)
そこにいたのは、つい最近関係を断ち切ると決めた「セフレ」。
朔哉だった。