恋愛計算は間違える(アルバートとテレーサ)

ブランシュール城・翌朝時8時25分 6-8ページ

<ブランシュール城・翌日8時30分>

アルはもう一度、朝日の中の古びた館を見上げた。
やはり、人の住んでいない廃墟のように見える。

「うーん」
アルはネクタイの結び目を直し、ドアノッカーに手をかける前に扉が開いた。

生きている人間が出て来た。
それも中年の女だ。

アルはほっとした。
「あら、おはよう、
新しく来た人ね。私はダイアナ、
よろしく」

ダイアナは
ひとなつっこいそばかすの笑顔で、アルに入るように手招きをした。
「ああ、おはようございます。」

ダイアナは陽気で
自分からいろいろな事をしゃべる
タイプのようだ。
それにお腹が相当に大きい。
もうすぐ赤ん坊が産まれるのだろう。

その時、
あの姫君が、喪服のような黒い服で、
中央の階段から降りて来た。
「ダイアナさん、こちらの方の
雇用契約書をお願いします。
私は書斎にいるから、何かあれば
声をかけてください」

アルの事をまったく無視して、
姫君は別の扉へと姿を消した。
ダイアナがアルに声をかけた。

「ええと、あなたは・・」
「アルバート・ロランド、
アルでいいです」
「いいわ、アル、じゃあこっちに来て?」

アルは姫君の立ち去った扉を
ずっと見ていた。

「初めての人は、ちょっと戸惑うわよね。
でも、悪い人ではないわ。
変わってはいるかもしれないけど」
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