婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
(もしかしてさっきのは魔獣の鳴き声? こちらに近づいてきているの?)

遭遇の可能性は高いと分かっていたし覚悟していたはずなのに、いざ戦闘になるかもしれないと思うと不安になる。

それでも足手まといにならないように、口を閉ざし息を潜めた。

アレクシアの緊張の高まりと比例するように、鳴き声が近づいてくる。

(もうすぐ側にいるみたい)

ただどちらの方角から来るのか、分からない。

周りでは樹々が風に揺らいでざわざわと音を立てていて、感覚を鈍くするのだ。

高まる緊張の中、メイナードが冷ややかに告げた。

「来るぞ」

護衛ふたりが彼の言葉に応えるように前に出て、剣を構える。とそのとき、激しい突風が巻きあがった。

砂煙が襲ってきてアレクシアは目を瞑る。ぎゃあと悲鳴のような獣の絶叫がした。

風が収まるのを肌で感じ、アレクシアは恐る恐る目を開いた。

「……っ!」

思わず声にならない悲鳴を上げた。視界の先には屈強な騎士の二倍はありそうな大きな四つ足の獣が、横向きに倒れていたのだ。腹部からはどす黒い液体が流れ大地に吸い込まれていく。

生まれて初めて見る魔獣と、その凄惨さに血の気が下がった。

「大丈夫か?」

メイナードに心配そうに問われても、問題ないと微笑むことができない。

引きつった顔で頷くだけで精一杯だった。

(魔獣とは本当に恐ろしいものなのだわ)
< 105 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop