婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
頭では分かっていたつもりだけれど、それでも甘く考えていたのだ。

少し前まではマナカでも出入りできた森だということ、それに以前城の庭で遭遇した鳥型の魔獣が、それほど恐ろしいものではなかったからかもしれない。

(旦那様が警戒する理由がやっと分かった)

アレクシアが間の森に近づくのを嫌がる理由も。

彼に手を引かれて、森を進む。

遠目に出口が見えてきた。森から出れば砦まであと少しだ。

ほっとして油断したときだった。

突然目の前の空間に黒い靄が生まれ、何事かと驚いている間にぐにゃりと歪みはじめたのだ。

「え……」

アレクシアは恐怖に目を見開いた。

黒い霧が先ほど倒した獣の形に変化したからだ。

それは一瞬のことだったし、いったいなにが起きているのか分からなかった。

魔獣は人の胴体ほどもある腕を振り上げ、アレクシアに襲いかかる。

とてもよけるなんて不可能だった。瞬時のことだし身が竦んでなにもできない。

「きゃあ!」

体に衝撃を受けて、地面に叩きつけられた。

混乱した怒号が響く中、アレクシアは痛みに耐えながらぶるぶる震える手を地面について、体を起こした。

意外にもどこにも傷を負っていないようだった。

てっきり怪我をしたのだと思っていたが、感じた痛みは地面に倒れたときの衝撃なのだろう。

「アレクシア、無事か!」
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