政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 きっかけは柚子の言葉だった。
 柚子が、子供が生まれたら夜に起きることを想定して、翔吾とは別に寝ると言ったのだ。
 それはもちろん激務の彼を思っての言葉だった。夜ゆっくり寝られなくては、朝比奈グループの副社長としての業務に支障が出かねない。
 少し寂しいけれど、特に珍しいことではないと自分自身に言い聞かせた。
 だがそれに、翔吾は眉をひそめた。
『三人で寝ればいいじゃないか。俺だってオムツを替えることくらいはできる。なんならミルクだって、寝かしつけだって。柚子の負担を減らすために三人で寝るべきだ』
『そんなのダメよ。翔君には仕事があるのに! もちろん助けてもらうことはあるかも知れないけど、毎日一緒ってわけにはいかないわ!』
 柚子も負けていなかった。
 その頃には彼が柚子に甘いのには慣れていたけれど、だからといって甘えっぱなしというわけにはいかない。
『翔君がなんと言おうと、別々に寝ます』
 それが翔吾のなにかに火をつけた。
 なら寝室は絶対にコネクティングルームにすると言って譲らなかった。
 たとえふたつの部屋に別々に寝ていたとしてもドアを開けていれば、空間としては繋がっている。
 大人が行き来をすることで、臨機応変に対応しようというのだ。
『なかなかいいじゃないか。この部屋なら、子供の様子を気にしながらも、夫婦の時間を持つこともできそうだ』
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