政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
夫婦の夜
「おいで、柚子」
 夜もふけた、夫婦ふたりだけの寝室で、大きな腕を広げて、翔吾が微笑んだ。
 柚子は後ろにあるドアの方をチラリと見て、こくりと喉を鳴らす。
 頬を染めたまま、微動だにできなかった。
 彼の、このセリフ。
 夫婦の夜を予感させるこの言葉を聞くのはいったい何カ月ぶりだろう。
 結婚してはじめて迎えた夜のように柚子の胸は高鳴って、もはや痛いくらいだった。
 柚子の後ろの少し開いたドアの向こうには、菜緒(なお)という柚子と翔吾の間にできた新しい命がすやすやと、かわいい寝息を立てている。
 新生児は夜中に何度も起きるという話だから、柚子も翔吾もそれなりに覚悟していたけれど、幸いにして彼女はよく寝る子だった。
 二カ月を過ぎた今、この時間に寝かせれば、数時間は起きないことはわかっている。
 だからといって、もちろん部屋にひとりにするわけにはいかないから、夫婦の寝室と扉ひとつで繋がっている部屋のベビーベッドに寝かせて、ドアを少し開けているのである。
 なにかあれば、すぐに気が付くように。
 柚子の出産を控えて、翔吾はもといたマンションから柚子の実家近くの静かな場所に新居をかまえた。
 もちろん、育児を考えてのことだ。
 さすがに出産までの短期間で新築を建てることはできなかったから、広い庭に囲まれた戸建てを買取り、フルリフォームしたのだが、彼は特に間取りにこだわった。
 寝室はホテルのコネクティングルームのように夫婦の寝室の隣にもうひとつ部屋を作り、扉ひとつでつながるようにした。
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