政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 そうしてあっという間の二カ月が過ぎた今夜、柚子は奈緒をはじめて隣の部屋のベビーベッドに寝かせた。
 それはいよいよ内覧の日に彼が柚子に囁いたあの言葉を実行するためだった。
 でもいざベッドの彼を前にすると、胸が張り裂けそうなほどドキドキと音を立てて、根が生えたようにそこから動けなかった。
 ……自分から言い出したくせに。
 心の中で、柚子は自分を叱咤する。
 そう今夜のことは、柚子自身が言い出したことだった。
 今夜は金曜日で、明日は休日。さらにいうとゴルフやパーティなどのお呼ばれもないとわかっていたから。
『あの、あのね、翔君。お医者さまからは、私の身体の回復も順調で……も、もう普段の生活に戻っていいって言われたの……!』
 夕食の後に、頬が熱くなるのを感じながら柚子が言った言葉の意味を、翔吾はすぐに理解した。
『……じゃあ、今夜は奈緒を隣の部屋へ寝かせてくれる?』
 奈緒を腕に抱きながら、彼は柚子に囁いた。そこに浮かぶ笑みは、明らかにいつも奈緒に向けている父親のそれではなかった。
 無垢な存在を抱きながら、夫婦の間の秘事を口にすることに、罪悪感をいだきながら、柚子はこくんと頷いたのだ。
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