政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「……ん」
 もう随分慣れたはずの温かくて柔らかい彼のキス。でもいつまでたっても高鳴る胸の鼓動は変わらなかった。彼の愛で満たされて頭の中が甘い期待でいっぱいになってゆく。
 唇に添えられた親指に、促されるままにそこを開けば、素早く彼が侵入した。
「ん、ん、ん……!」
 ふたりだけの部屋に響く艶めいた声が、柚子の頬を真っ赤に染める。
 夜はまだ始まったばかりなのに、こんなにも乱れてしまうのが、恥ずかしくてたまらない。
 彼の胸に両手をついて、柚子は身体を引こうとする。だがそれは、うなじに差し込まれた大きな手によって阻まれた。
「んんっ……!」
 激しさを増す口づけに、柚子は背中をしならせる。
 奈緒がお腹にいる間は、彼は柚子にただ優しかった。
 数え切れないくらい口づけて、腕に抱くことはあっても、最後まではしなかった。
 でも今夜は違うのだと、このキスが告げている。
 柚子の世界は彼の香りと熱に満たされて、なにもかもわからなくなってゆく……。
 ——でも。
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