政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「あ、ダメ!」
 いつのまにか寝かされたベッドの上、パジャマのボタンを外す手に、柚子は身をよじって声をあげる。
「ま、待って……、翔君」
 手を止めて、柚子のこめかみにキスを落として、翔吾が耳に囁いた。
「柚子? 怖い?」
「そ、そうじゃなくて……!」
 柚子はふるふると首を振る。
 半分は本当で、半分は嘘だった。
 久しぶりの夫婦の夜を迎えるにあたって、柚子には心配ごとがひとつある。そのことが男性にとってどのくらいのことなのか見当もつかないが、少なくとも柚子にとっては、とても大事なことだった。
 でもそれを口にするのはためらわれて、柚子はキュッと唇を噛む。
「柚子?」
 優しい眼差しで問いかけかれてもすぐには言葉が出てこない。
 どんな風に伝えればいいのか、そもそも伝えた方がいいのか、それさえもわからなかった。
「柚子? ……無理をすることはない。まだ怖いなら、今夜でなくてもいいんだぞ。時間はたっぷりあるんだから」
 柚子の髪に指を絡めて翔吾が優しい言葉をくれる。
 それに柚子は首を振った。
「そうじゃないの! そうじゃなくて……!」
「うん」
 その眼差しに導かれるような気持ちで、柚子はこくりと喉を鳴らして、ゆっくりと口を開いた。
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