政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 彼がクロではなく柚子が妊娠しているのだと勘違いしたのだとして。
 だとしても、彼のこの反応は……?
 柚子の記憶違いでなければ、彼に抱きしめられるのは、今この時がはじめてだった。
 幼なじみだとはいえ、思春期を過ぎてからはふたりはずっと適切な距離を保ってきた。
 兄のような存在として、頭を撫でてもらうことはあったものの、こんな風に抱き合ったりしたことは一切ない。
 彼の意思を無視するように、柚子が姉の代わりとして、結婚することが決まってからはなおさらだった。
 もちろん金曜日の夜は、夫婦として触れ合う。
 でもあれは、いつもどこか義務的で、優しすぎるほどに優しくて、今彼がしているのとは程遠い。
 こんな風にまるで愛し合っているかのように抱きしめられるのは、本当に初めてのことだった。
 柚子の胸に不思議な想いが広がってゆく。
 愛のない結婚でも、彼は子供ができるのは嬉しいのだろうか。
 それがたとえ柚子の子だとしても……?
 翔吾が柚子をしっかり抱いたまま、優しく言い聞かせるように口を開いた。
「はじめてだからな、不安になるのは仕方がない。でも大丈夫、なにかあれば全部俺に相談するんだ」
「全部、翔君に相談を……?」
 幸せと困惑が入り混じる思考の中で、柚子は彼の言葉を繰り返す。
 翔吾が力強く頷いた。
「そうだ、俺たちは夫婦なんだから。もちろん俺もはじめてだからわからないことはあるだろうが、全力でサポートする。ふたりで乗り越えよう」
「夫婦……、ふたりで……」
 相談してくれという言葉、夫婦ふたりで乗り越えようという言葉も、柚子がこれまで、ほしくてほしくてたまらなかった言葉だった。
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