政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 でももう今からでは遅いのかもしれない。
 胸がドキドキと嫌な音を立てて、張り裂けそうだった。
 フォークを持つ手の指先が冷たくなっていく。
 たとえ愛されていなくても妻として一緒にいられるならば、それでもいいと思っていた。
 ふたりを繋ぐものが家族としての親愛のみだったとしても、それでも彼が好きだから。
 でももし彼に軽蔑されてしまったら……!
「柚子? どうかしたの? 真っ青だよ」
 心配そうな真希の言葉に柚子はハッとして彼女を見た。
「新婚の柚子にはあまり気分のいい話じゃなったかな。ごめんね」
 眉を寄せて申し訳なさそうにする真希に、柚子は慌てて首を振った。
「そ、そうじゃないの。ちょっとびっくりしすぎただけ。大丈夫だよ」
「でも柚子、全然食べてないじゃない。……食欲ない?」
 そう言われて、柚子は目の前のお皿に視線を落とす。
 柚子が大好きなクリームパスタはまだ半分以上残っている。でもまったく食欲が湧かなかった。
「今日寝坊しちゃってさ。ちょっと朝ごはん遅かったんだよね。……だからお腹空いてなくて」
 誤魔化すようにそう言って柚子は無理やり笑みを浮かべた。
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