政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
涙の朝
「……ず、柚子」
 翔吾が自分を呼ぶ声がする。
「……柚子、柚子」
 でも瞼が鉛のように重たくて、柚子はそれに応えられなかった。
「……柚子……?」
 温かい大きな手が柚子の髪を優しく撫でる。
「柚子」
 何度も何度も呼びかけられて、柚子はようやく目を開いた。
 次第にはっきりとする視界。
 明るい朝日が差し込む寝室で、翔吾が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
 にゃーん。
 傍に、クロもいた。
「おはよう、大丈夫か?」
「え……、私……?」
 ぼんやりとした頭のままでこの状況を把握しようと柚子は考えを巡らせる。でも頭にモヤがかかったみたいで、あまりうまくいかなかった。
 翔吾が形のいい眉を寄せた。
「柚子、昨日もまたソファで寝てたんだぞ」
「え……? ……あ!」
 翔吾の言葉に、柚子の頭はようやく少しだけはっきりとする。
 ゆっくりと身体を起こすと、翔吾の腕が支えてくれる。その彼はベッドに腰をおろして柚子の手を握り心配そうにこちらを見つめていた。
 柚子は昨日の出来事を思い出す。
 昨日、ランチ会で真希の話を聞いてから、柚子の頭の中は、黒い不安でいっぱいになった。あの後自分がふたりとなにを話したのかさえ、覚えていないくらいだ。
 結局、パスタもほとんど残してしまった。
 そして夜、起きて翔吾を待っていたのだ。
 もちろん彼に本当のことを言うためだ。でも正直言って、ちゃんと言える自信はあまりなかった。
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