政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 翔吾に嫌われてしまったら、柚子の人生は終わってしまう。
 本当は、言いたくない。
 逃げ出してしまいたい。
 でも、そういうわけにはいかない。
 だから今度こそは絶対に言わなくてはと決意して、ソファで起きて待っていたのに……。
 また寝てしまっていた……?
 しかも窓の外は明るくて、目の前の翔吾はスーツを着て、いつでも出かけられる状態だ。
 と、いうことは、あろうことか柚子は、寝坊までしてしまったのだ。
 血の気が引いてゆくような心地がした。
 最低だ。
 夫婦にとって、とても大事なことで嘘をついているだけでなく、夫の朝ごはんを作るという簡単なことさえも二日連続で放棄するなんて。
"軽蔑するわ"
 真希の言葉が頭に浮かんだ。
「翔君、あの寝てしまってごめんなさい、それにまた寝坊して……」
 柚子は慌てて、とりあえず頭に浮かぶ謝罪の言葉を口にする。
 それに翔吾は首を振った。
「いや、それはいいんだよ」
 そして眉を寄せて柚子を見た。
「ただ、ソファで寝るのはなしだ。柚子が不安になるのはわかる。……それは一緒にいてやれない俺のせいなんだけど……、お願いだからベッドで寝ててくれないか。柚子がソファで待っているかもしれないと思ったら、俺、仕事が手につかなくなりそうだ」
 そう言って少し情けなさそうに微笑む翔吾を、柚子は不思議な気持ちで見つめていた。
 こんな表情の彼は、はじめてだった。
 彼はいつも実力に裏打ちされた自信に満ちている人だった。決して自分の力をひけらかすようなことはしないけれど、なにが起きても落ちついて堂々としている。
 だから彼の元には自然と人が集まる。朝比奈グループにはいい後継者がいると財界でも評判だった。
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