政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 正しい答えは、"私たちデートはまだしたことがないんです"
 でもそれをそのまま言うことは柚子にはできなかった。
 普通に考えて結婚しようという男女が、デートもしたことがないなんて、たとえお見合い結婚だとしてもありえない。
 そんなことを口にしたら、私たちは家同士の都合で急に決まった政略結婚で、互いに愛情はないのですと暴露することになる。
 そして翔吾がなにか言う前に、柚子が咄嗟に口にしたのが臨海公園だったのだ。
 臨海公園には小学生の頃に翔吾と姉と互いの母親と皆で行ったことがあった。
 その頃、すでに翔吾と姉は中学生だったからどちらもしぶしぶといった様子だったけれど、母たちからしてみれば、将来のふたりの結婚を見据えてのなにかだったと思う。
 おそらく柚子はただのおまけだったけれど、その柚子が一番楽しんだ。大好きな姉と大好きな翔吾とのお出かけは、いい思い出として柚子の中に鮮明に残っている。
『初デートの場所は、……臨海公園です』
 うつむいてプランナーに答える柚子を翔吾は申し訳なさそうな複雑な表情で見つめていた。
 あの時は見栄を張る自分に呆れられたのしれないと思い、とても恥ずかしい気持ちになった。だとしてもそう答えるしかなかった。
 あの柚子の言葉を彼は実現しようとしてくれている。
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