政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
『柚子は楽しめればいいからね』
 よく言われていたあの言葉は、あなたに期待していないという意味ではなく、ただ楽しんでほしいという意味だった。
「翔君……」
 柚子の目から溢れる涙が、翔吾のシャツを濡らしてゆく。
 温かい大きな胸にしがみついて柚子は泣き続けた。
「俺たちは、結婚自体が突然だったから、俺は今までどこか柚子に遠慮して、どう接するのが正解かわからなかった部分があるんだ。でもこれからは柚子とお腹の子を全力で愛するよ。三人で幸せな家庭を築いていこう。俺は今日、この話をしたかったんだ」
 温かくてこれ以上ないくらい愛に満ちた翔吾の言葉。
 すべてをそのまま受け取る資格は柚子にはない。
 それでもその中に、今までの柚子のなにかを変えるヒントがあると柚子は確信していた。
 柚子には柚子のいいところがある。
 その言葉をもう一度ちゃんと考えてみよう。
 彼の腕に抱かれながら柚子はそう心に決めた。
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