政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 その彼の様子に柚子は少し躊躇するけれど、手を握る彼の温かい体温に励まされるように口を開いた。
「翔君、私……本当に妊娠しているの?」
 まずは一番気になることを確認する。
 翔吾がゆっくりと頷いた。
「あぁ、間違いないよ。柚子がここに運ばれた時に全部検査してもらったから」
 そう言って、翔吾はポケットから、あるものを取り出した。
 それは柚子がテレビでしか見たことがないエコー写真だった。
 真ん中あたりに、小さいクリオネのような形の影がある。翔吾がそれを指差した。
「俺たちの子だ。確実に柚子のお腹の中にいる。元気に育っているよ」
 それでも柚子はまだ信じられなくて、自分のお腹に手をあてる。
 まさかここに、本当に新しい命がいるなんて。
 じゃあ、ここのところの体調不良は、本当につわりだったってこと?
 翔吾が、重ねた手に力を込めた。
「柚子?」
 柚子はチラリと上目遣いに彼を見て、ゆっくりと話し始めた。
「翔君、私……私は自分が妊娠してるって知らなかったの」
 翔吾が頷いた。
「あの日、私が妊娠しているって翔君に言ったのは……、その……クロのことを言ったつもりだったのよ」
「クロの……?」
「そう、あの日、私クロを動物病院へつれて行ったでしょう? そこでクロが妊娠していることがわかったの。私、猫は飼ったことがあるけれど、お産に立ち合ったことはないんだもの、先生は年齢から考えてクロもはじめてのお産だろうっておっしゃるから私動揺しちゃって……」
「それを俺が柚子の妊娠だと勘違いしたわけか……」
 翔吾が唖然として呟いた。
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