政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 少し慌てて柚子は再び口を開く。
「も、もちろんすぐに訂正しようと思ったのよ。でも翔君が……」
「……俺が?」
 柚子は頬を染めた。
「翔君の反応が、とっても意外だったから私、ちょっとパニックになっちゃって」
「俺の反応が?」
 そこで柚子は唇を噛んでうつむいた。
「……すごく……喜んでくれたでしょう? 抱きしめてくれて、なんでも相談してくれって、俺たちは夫婦なんだからって」
 言いながら柚子は思わず涙ぐんでしまう。
 寂しくて虚しくてつらかったあの時の気持ちを思い出して。
「柚子……」
 翔吾が苦しげに呟いた。
「私、お姉ちゃんの代わりに翔君と結婚したから、愛されていないのはわかっていた。それでもいいって思ってたの。それでも、どうしても私は翔君と結婚したかったから。小さい頃からずっと翔君が好きだったんだもの。でもやっぱり愛されていない結婚生活は寂しくて、だからあの時、私が妊娠したと思った翔君があんな風に喜んでくれたのが、本当に嬉しかったの。……それからも何度も本当のことを言おうと思ったんだけど、だんだん言いづらくなってしまって……嘘をついたりして、本当にごめんなさい……」
 すべてのことを吐き出して柚子は長いため息をつく。頬を一筋の光が伝った。
 本当は言わなくてもいいところまで、赤裸々にすべてのことを口にしてしまった。
 愛されていない結婚生活が寂しかったなんて、わざわざ自分の傷をえぐるような言葉だった。
 それでもそうすることが今の自分に必要だった。
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