政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
翔吾の告白
 静かな病室ではっきりと聞こえたはずのその言葉を、柚子はすぐには理解できなかった。
 柚子が妊娠したことを知って彼が誠実に柚子と本当の家族になろうとしてくれているのは知っていた。
 これからの柚子を愛そうとしてくれていることも。
 でもたった今聞いた言葉はそれとは少し違っている。
「柚子を愛してたんだ。はじめから、ずっと」
 もう一度繰り返される翔吾の言葉に、柚子は唖然として呟いた。
「はじめから、ずっと……?」
 信じられない話だった。
「そう、ずっとだ」
 頷いて翔吾は少しだけ遠い目をした。
「いつからなんて、正直言ってわからない。幼なじみとしての親しみが途中から男女の愛情に変わったのか、それともはじめからそうだったのか、それもはっきりとはわからない。ただ、記憶にある限り俺はいつも柚子を大切に思っていた」
「翔君……」
「幼い頃から朝比奈グループの後継だった俺は常に厳しい教育を受けてきた。いつもどこかでプレッシャーを感じながら生きてきたんだ。それでも柚子の笑顔を見ると、ひとときそれを忘れることができる。また頑張ろうと思い直すことができたんだ。俺にとって柚子はなくてはならない存在だった」
 そこまで言って、翔吾は長いため息をつく。そして小さく首を振り、また口を開いた。
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