政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「でもそれは絶対に誰にも知られてはならない感情だった。物心がついた時から、俺は沙希と婚約していたから……」
 婚約者の妹を好きになってしまったなど、到底許される話ではない。
「沙希にも俺にも互いに男女としての愛情はなかった、それはお互いに確認し合っていたからいずれ婚約は解消するとふたりで話合ってはいた。でもだからといって、その後に柚子と結婚したいなんて言えるはずがないだろう?」
 翔吾と姉、ふたりの間にそんな話があったなんて、これまた信じられない事実に柚子は目を見開いた。
「だから俺ははじめから、諦めていたんだよ。柚子への気持ちは一生誰にも言わないで、誰とも結婚するつもりはなかった。この気持ちを押し殺して、他の誰かを愛することなど到底できそうになかったから」
 知らなかった彼の胸の内に柚子は言葉もないままに、ただ耳を傾けた。
「もちろん柚子にもこの気持ちを言うつもりはなかった。柚子は俺のことを優しいお兄ちゃんくらいにしか思っていないと思っていたし、そもそも結婚できないのに、伝える意味はないからな。それは思いがけず結婚することになってからも同じだった。柚子は家のためにただ住吉家の次女としての責任から俺と結婚すると言い出した、俺はそう思っていたから……」
 それは仕方がないことだった。他でもない柚子自身がそう彼に告げたのだから。
 翔吾が、苦しげに眉を寄せた。
「だから俺は好きでもない男と結婚した柚子の負担にならないように、この半年距離を取って過ごしてきたんだ。でもそれが柚子につらい思いをさせていたんだな。……俺の誤解に柚子が本当のことを言えなかったのも、そのことに気を取られて自分の妊娠に気が付けなかったのも……今回倒れたのも、なにもかも俺のせいだ。……本当にごめん」
「翔君のせいじゃない!」
 柚子は反射的に声をあげる。
 柚子の気持ちも、翔吾の想いも、お互いに伝えられる状況にはなかった。
 誤解し合っても仕方がなかったのだ。
 今回のことはなにもかもがほんの少しずつかけ違っていた、その結果にすぎない。誰が悪いとか、なにかのせいだとか、そんなことはなにひとつない。
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