政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 怖いわけではないけれど、どう受け止めればいいかがわからない。
 その柚子の反応に、翔吾が一旦口づけを解く。
 それを寂しく感じながらゆっくりと目を開くと、至近距離にある彼の瞳。いつもの優しいその色の中に、獰猛ななにかが浮かんでいる。
「柚子……!」
 そして今度は柚子のすべてにキスの雨を降らせ始める。
 頬に、耳に、こめかみに。
 瞼に、髪に、首筋にまで……。
「あ、あ、あ……!」
 どうしても漏れる出る声が柚子の耳を真っ赤に染める。
 柚子を欲しがる彼の吐息が柚子を未知の世界へ連れてゆく。
 知らなかった。
 彼のキスが、彼の息が、彼の想いが、こんなにも熱くて、甘いなんて。
 こんなにも、切なくて、狂おしげで、余裕のない……!
「柚子、柚子、柚子……! ……ダメだ!」
 でもそこで、彼はなにかを振り切るように首を振り、柚子の胸元に顔を埋める。そしてそのまま柚子をギュッと抱きしめて、ふぅーと長い息を吐いた。
「しょ、翔君……?」
 突然の彼の行動に、まだ整わない息のまま、柚子は彼のつむじを見つめる。
 翔吾がもう一度息を吐いて、眉を下げて柚子を見上げた。
「危なかった……」
「……へ?」
「危うくこのまま、襲いかかるところだった。柚子は普通の身体じゃないのに、しかもここは病院なのに」
「なっ……!」
 いつも冷静で常識的な彼らしくない発言に、柚子は真っ赤になってしまう。
 自分の耳が信じられなかった。
「しょ、翔君……⁉︎」
 咎めるように柚子は言う。
 翔吾が、これまた彼らしくない少し子供っぽい仕草で口を尖らせた。
< 93 / 108 >

この作品をシェア

pagetop