どうも、薬作りしか取り柄のない幼女です

 エンスさんまで顔を「なに言ってんのこの人」みたいにしてるので、これはどうやら仕組まれたことではないようだ。
 でも、祭りのメイン会場はここに他ならないし、ルシアスさんが今日という日を選んで私たちを招いた以上最初から嵌められていたに違いない。
 目の前に現れたルシアスさんの、その頭上には水のドラゴンと岩の亀が浮いている。
 風聖獣様と火聖獣様に会ったことのある私にはすぐにわかった。
 この水のドラゴンと岩の亀が水聖獣様と土聖獣様だ。

『素晴らしい。その方が“薬師の聖女”か! おかげで妾たちは久方ぶりに穴の外へと出ることができたぞ! 礼を言おう!』
『ワイもワイも! 素晴らしい効き目なんだもんな! ありがとうありがとう! お礼に加護をあげる!』
「え? え? え? え?」

 カァア、と降り注ぐ光。
 人々の騒めき。
 眩しい光で目を閉じて、それが収まったと目を開けるとルシアスさんの満面の笑顔が目の前にあった。
 物凄く嫌な予感しかしない。
 さあ、と囁かれ、抱き上げられると目を剥いて驚愕する観客たちの顔。

「父上、母上、そして民よ! 紹介しよう! この少女こそ私の婚約者、“薬師の聖女”ミーアである! 彼女こそ私の第一王妃! 今はまだ幼いが、人間族の成長は速い! なんら問題はなかろう!」
「え? は? へ?」
「そしてこちらの少年が我が妹、エルメスを救ってくれた英雄カルロの子にして、獣人と人間との間に生まれた“奇跡の子”タルト! 聖獣たちがその誕生を切望せし、“ヒト”の希望だ!」
『素晴らしい! 火聖獣の言う通りだった!』
『すげー! すげー! こんなめでたいことはないぞ! 人間と獣人の間に子が生まれるなんて! そんなの嘘だと思ってた! 間違いない!』
「…………」

 あ、タルトも呆然としている。
 ということは……!

「ル、ルシアスさん、どういうことですか!」
「どうもこうも、私は崖の国の“薬師の聖女”と結婚することが決まっている」
「…………あ」

 そういえば。
 いや、でも、それってスティリア王女のことでは!?

「は、謀ったの……ルシアスさん!」
「カーロ、君は王族でありながら為政者としてまるで学んでいない。それでは“薬師の聖女”も“英雄の子”も守れないよ。私はこの国の王太子。次期国王だ。国のために利となるものは、恩人でも使う」
「っ!」

 どちらも小声だけれど、しっかり聞こえてる!
 爽やかな笑顔でなんてことを!
 観客席の人たちも、最初こそ困惑が大きかったが大穴の側の国王が大笑いして手を叩き「素晴らしい! 聖獣たちが認めた!」と叫ぶと次第に表情が変わっていく。
 私とタルトの困惑は、ますます強くなるばかり。
 とりあえずわかることといえば「多分はめられたっぽい」ってことくらい?

「さあ、今日は祝いの日だ! 水聖獣様と土聖獣様の復活! そして息子の婚約者と、英雄の子の帰還を祝え! 今宵は宴だ!!」

 中央にいる王様らしき人が叫ぶと、偉い人はみんな立ち上がって拍手する。
 その視線、称賛は私たちへと向けられていた。
 私たち——というよりは、ルシアスさんへ?
 困り果ててダウおばさんを見たけれど、ダウおばさんも目を丸くして左右を何度も見渡していた。ダメだこりゃ。

「色々言ったけどね、ミーア……君に感謝しているのは本当だよ。無事に今日という日を迎えられたこと……父も母も、そして家臣たちも聖獣様たちも……君のおかげで今日を迎えられたんだ」
「っ……」
「婚約の話は考えておいてくれればいい」
「いえ! それは——わぁ!」
「宴の席に招待するよ。エンス、ダウとカーロを連れてきて」
「は……」

 それから、本当に酒盛りの場に連れて行かれてたくさんの人に話しかけられた。
 大穴の隣での酒盛りとは驚いたし、水聖獣様と土聖獣様もお酒飲んでる。
 信じられない光景だ。
 これが聖森国!
 私とタルトは口下手なので、始終カーロが受け答えを代わってくれたけど……その表情に余裕はない。
 時折見せる、カーロの悔しそうな表情。
 それでわかった……ここは——政治という戦場。
 非武装な私たちが、いるべき場所ではない!

「まあ、ずるいですわ、皆さまばかり。わたくしもお話に混ぜてくださいませ」

 私の隣に座ったのは、綺麗な白い髪の女の人。
 仕草のひとつひとつが美しい。
 その瞬間、私たちに執拗に話しかけていた偉い感じの人たちは口を噤む。

「はじめまして、聖女さま。そして英雄の子、タルト。そのご友人カーロさま、ダウさま。わたくしはエルメス。この国の第一王女です」
「!」

 この人が!
 半獣人……獣の姿になれない、ルシアスさんの妹!

「兄が色々無理を言ってごめんなさいね。きっとまたわたくしのためになにか悪いことを考えているのです」
 こそ、と私にそう耳打ちするエルメス姫。
 ()()……って……ルシアスさん……。
「……いいえ、エルメス姫……今日こちらに来たのは、私も望んでのことだから……」
「まあ……」

 そうだ、ルシアスさんとの約束もあった。
 確かに変なことに巻き込まれてしまった感はあるけれど、ルシアスさんがエルメス姫のことをとても大切にしているのを知っている。
 そのために、この国を丸ごと変えようとしているのも。
 さっきのはちょっと嫌な気持ちにはなったけど、なりふり構っていられない、ルシアスさんの暴挙だと思えば可愛げも——なくも、ない、ことも、なくもない?
 いや、やっぱり嫌だな。この話は後ほどしっかりさせていただくとして。

「私、エルメス姫さまのお友達になりにきたんです」
「!」

 今まで聞いたことのない騒めきが、その場に起こる。
 やっぱり、エルメス姫はなにか特別な事情があるのだろう。
 命を狙われるような、そんななにか。
 それは半獣人だからなのだろうか?
 でも、私は半獣人が好きだ。
 私を助けて、娘にしてくれたダウおばさんや家族にしてくれた村の人たち。
 その人たちと同じ、半獣人のお姫様。
 きっと友達になれる。
 ……ううん、友達になりたい。
 見上げると、少し泣きそうなエルメス姫。

「嬉しい……お名前を伺っても?」
「ミーアと申します!」
「ミーア……ええ、ええ、ぜひ! ぜひ、わたくしのお友達になってください!」
「はい! よろしくお願いします!」

 ああ、やはりだ。
 この人の中に私と同じ、でも別種の孤独を感じる。
 私はたった独りで死を選んだ。
 でもそれは、この世界への反逆に等しい。
 美しい世界で、独りで死んではいけないの。
 ルシアスさんは、きっとエルメス姫の孤独に気づいていてなにもしてあげられないことにいじけてるんだ。
 だから私に、エルメス姫に会ってほしいって言ってたんだな。

「俺も」
「え?」
「俺も友達なる?」
「な! そ、それなら、オレだって!」
「!」
「あ、いや……人間のオレは、嫌かもしれないが……」
「そんなことないわ! ありがとう! ふたりのお名前もうかがっていいかしら?」

 カーロとタルトもエルメス姫のともたに立候補してくれた。
 ふたりも火聖獣様の『祝福』を受けて、知っている。
 この美しい世界を、知らずに独りで死ぬことは許されない。
 この世界は、優しさと奇跡で満ち溢れている。
 だから、私は——私たちは——手を取り合って、生きていく。
 生きていくことができる。
 もちろん、薬作りはやめられないけどね。



 了
 
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