空を舞う金魚
「……ド、……ドイ、ツ……?」
まるで知らない言葉をしゃべるようなたどたどしさで、問う。
どくんどくん、と心臓が鳴っている。……これは知ってる。動揺と、そして焦りから来る動悸だ。あの日と同じように混乱する千秋に、渡瀬は淡々と決まっていることを語った。
「ドイツで進んでる列車の自動運行システムの開発に参入できることになったんだよ。自動運行システムはうちの会社では今まで大阪支店で主に開発されててね。でも東京にその拠点を移すことになって、今回大阪から東京に来た俺が、現地との調整役に、……って白羽の矢が立ったんだ」
千秋の前に再び現れた渡瀬は、また千秋の前から姿を消すのか……。
「行けば五年は帰れない。だから……、俺を選んで、ドイツについてきて欲しい」
渡瀬が強い眼差しで千秋を見る。千秋と渡瀬の間には人一人分しか間が空いてなくて、その周りを次々に駅へ行く人や駅から出てきた人が行き過ぎていく。二人だけ止まった時間の中で、呼吸をするのが苦しかった。
あの時と同じ……、あの時と同じだ……。そうして渡瀬くんは居なくなってしまって……。