空を舞う金魚
「あのまま一生会えなかったら、ほろ苦い思い出のままだったんですけどね。……でも、会っちゃったから」
口許を吊り上げて笑う渡瀬には会社の女子たちが騒ぐような爽やかさは何処にもない。ただひたすら獲物を見つめる獰猛な肉食獣のようだ。
「悪いけど、君の過去には興味がないよ。綾城さんが過去に君になんて言おうとしたのかも」
砂本が見ているのは現在(いま)の綾城だ。過去のしがらみは関係ない。地道に黙々と皆の為に気を遣って働いている彼女を好きになった。この八年間の彼女しか知らないし、要らない。
「彼女は高校の頃から変わってないですよ。素直で真っすぐで、そしてちょっと引っ込み思案な女の子です」
「そんなの、この八年を見れば分かるさ」
知ったかぶりをされるのが嫌だった。かたんとグラスを置いて席を立つ。自分の分を払うと、砂本は店を出た。……渡瀬が何時まで店に居たのかなんて、知らなくて良いと思った。