空を舞う金魚

「実家暮らしだから、そこはわきまえてるよ。ご両親にも心配かけたくないし」

紳士だなあ……。素直にそう思った。

カフェを出て駅に向かう。隣を歩く砂本さんがそっと千秋の手を取った。途端に蘇る、夕方の雑踏の中の記憶。力強い手に右手を預けて歩いた、あの時。

咄嗟にぱっと手を引っ込めた。砂本さんが不思議そうに千秋を見る。

「綾城さん?」

「あ……、すみません……。反対の手で、良いですか……?」

砂本は千秋の行動を特に疑問に思わなかったらしく、そう? と言って、左手を繋いでくれた。手がむずむずして慣れないけど、こうやって過ごしていったらきっと慣れる筈。千秋は手を握り返すことが出来ずに、駅までの道を歩いた。

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