空を舞う金魚
季節が進む。そろそろカーディガンを羽織って出勤しても暑くない気候になった。満員電車を揺られながら吊革に掴まっていると、ふと、腰の後ろに触るものを感じた。腰って言うか、それより下……。
え……っ? 痴漢……? でも何かが当たってるだけでは鞄とかかもしれないし、何とも言えない……。
そう思ってじっとしていたけど、明らかに手だと分かる感触が千秋の体を撫でていく。怖くなって足が震えて、呼吸すら浅くなっていった。
(怖い……。やだ……、誰か……)
千秋が恐怖に震えて声も出なくなっていた、その時。
「おい、あんた。なにしてんだよ」
千秋の背後で声を上げて、千秋の体を触っていた腕を捩じり上げてくれたのは、渡瀬だった。鋭い目つきで、千秋の背後に居たサングラスをした男を睨みつけている。
「な……、俺は何も……」
「何もしてないって言うのかよ。俺、見てたんだからな、こいつに触ってるところ」
「しょ……、証拠は……」
「繊維鑑定でも、DNA鑑定でもしてもらったらいいだろ。どっちみち黒にしか出ないからな」
怒気を含めた強い口調の渡瀬が、痴漢をしていたと思われる男を威圧していく。丁度電車が次の駅に止まって、千秋は渡瀬に促されて、彼らと一緒に駅に降りた。