空を舞う金魚

鉄道警察室で取り調べを受けると、サングラスの男はあっさりと痴漢をしたことを認めた。千秋の横にはずっと渡瀬が怒ったような顔で立っていて、その圧力もあったと思う。千秋は兎に角怖くて震えていて、目の前で痴漢が罪を吐露していることに対する安堵よりも、未だ知らない男に身体を触られた恐怖が拭えなかった。ぎゅっと縮こまって膝に置いた手をきつく握りしめる。それでも震えてしまう身体を、隣にいた渡瀬がやさしく肩を抱き締めてくれた。

カーディガンの上から感じる渡瀬の手のあたたかさと重さや、傍に居る渡瀬から香るさわやかな香りにじわじわと安心感が染みてきて、強張っていた身体の力が抜けたと思ったら、恐怖と安堵と両方の涙がぽろりと零れた。

「……っ、……」

一粒零れてしまうと、あとからあとから涙が零れて止まらない。良い大人なのに、こんなことで泣いてしまうなんて恥ずかしい。そう思っても止められなかった。渡瀬が気遣ったようにポケットからハンカチを貸してくれて、そのハンカチのシトラスの香りに安心してしまった。

渡瀬は千秋の涙が収まるまで、ずっと肩を抱き締めてくれていた……。

< 133 / 153 >

この作品をシェア

pagetop