空を舞う金魚
終業後、ビルの玄関で渡瀬が出てくるのを待っていた。定時後は沢山の人が玄関を出て行ったけど、時間が経つにつれ、人の塊が時々流れるだけになっていた。千秋は玄関ホールの片隅に立って、エレベーターホールから玄関の方へと流れていく人の流れをじっと見ていた。四十分くらい経っただろうか、渡瀬が一人でエレベーターを降りてきて、千秋は彼に声を掛けた。
「渡瀬くん、お疲れ様……」
渡瀬は千秋が其処に居ることに驚いて、それからお疲れ様、と言った。
「なに? ずっと此処に居たの?」
「う、うん……。あの、渡瀬くん……、今朝は、ありがとう……」
千秋の言葉に渡瀬は、それを言う為に此処に居たの? とやさしく微笑んだ。
「あれは同じ男として、許せなかっただけだよ。……綾城さんが怖い思いをする前に気付けたら良かったんだけど」
それは無理だ。痴漢は現行犯が基本で、憶測で犯人にでっちあげることなんてできない。それでも渡瀬は悔しそうに言った。