空を舞う金魚
「綾城さんの記憶に、嫌なことは一つも残したくないんだ。未来はデータの線路上にあるって言った社長の話、覚えてる? 綾城さんが今日、あんなことに会わなければ、男性に対する恐怖だって持たなくて済んだ未来があったかもしれない。でも、経験してしまったら、満員電車は怖くなるよね……。そういうひとつひとつの積み重ねで、綾城さんが辛かったり悲しかったりするのは、俺が嫌なんだ」
まるで真綿に包まれるような愛情を示されて、千秋の胸が高鳴った。こんな風に過去にも未来にも千秋のことを第一に考えてくれる渡瀬に返事を突き返さなければならないことが、申し訳ない。
「渡瀬くん、私……」
返事をする為に待っていた千秋の言葉に、渡瀬の言葉が被る。