空を舞う金魚

「再会した時、俺の事知らないって言ったよね? あれは砂本さんを前に自分の気持ちを知られるのが怖かったからじゃないの? 本当は卒業式の時と同じ気持ちで、綾城さんは今居るんだろう?」

渡瀬が射貫くような視線で千秋を見つめ、腕を取って抱き締めようとする。千秋はそれに抗って、首を振った。

「やめて、もう……」

「綾城さん!」

その時、エレベーターホールから出てきた砂本が駆け寄ってくれた。ふ、と緩んだ渡瀬の腕から逃れて砂本に縋る。

「なにをしてたんだ、渡瀬くん。ことと次第によっては……」

砂本がきつい目で渡瀬を見た。千秋は慌てて場を取りなす。

「砂本さん、大したことじゃないんです。ちょっと……、食い違いがあって」

千秋の、語尾が消えそうになる言葉に渡瀬が被せて言う。

「俺は諦めないよ、綾城さん。君の本当の気持ちを聞くまでは……」

渡瀬の言葉に砂本の隣で俯く。砂本が千秋と渡瀬を交互に見た。

「なんだい、本当の気持ちって」

砂本が千秋に問う。千秋は首を振って、なんでもないんです、と応えた。

< 138 / 153 >

この作品をシェア

pagetop