空を舞う金魚

カフェの向かいの席でコーヒーを飲む砂本に、問うてみた。

「あの……、つまらなくないですか?」

職場での様子を見ても、砂本は面倒見の良さとそのやさしさから、モテる。なにも、こんな男慣れしていない千秋を相手にしなくても、恋の余地はいくらでもあると思うのだ。砂本は口許に笑みを浮かべてこう言った。

「綾城さんは、自分の役割を全うしようと、何時もしてるよね。……でも、プライベートでまでそれを自分に強要しなくても良いんだよ。……僕に対してもね。僕が君に交際を申し込んだからと言って、君がそれを受け入れなきゃいけなきゃいけないなんてことは、絶対に、ない。綾城さんは、自分の意思で、僕を振ってくれたって良いんだ。自分の、自由の為に」

あの時から何時も思ってきたのは、相手に何かを求められた時に、それに対応できるだけの自分で居たいということだった。一度失敗した記憶は、決して人生から消えない。二度と失敗したくないと、強く思ってきた。それを、しなくて良いと言われるとは、思わなかった。

勿論、ちゃんと話を受けると決めて返事をしたわけじゃないから、砂本がそう言う理由も分かるけれど、じゃあ、自分は何を求められて、今日砂本と会っているのだろう?

「もし恋人になったとしても、僕は綾城さんの自由を認めていきたいと思うよ。気持ちを押し付けることは出来ないからね。そこまで縛ってしまっては、暴君の出来上がりだ」

凄く……、千秋に寄り添ってくれていると思う。こんな、手を握られたくらいでNOを突き付ける相手なのに、それを汲んでくれたことに対して、千秋は確かに安心感を得た。知らず、ほっと息を吐く。
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