空を舞う金魚

「渡瀬くんと一緒に居たから一瞬どきっとしちゃったよ」

砂本が食事の席でそう笑った。

気軽なイタリアンの店に入り、前菜のカプレーゼとカルパッチョを食べ終わって、シェアするマルガリータとパスタが出てきたところだった。白ワインを飲みながら、砂本は口を開く。

「既にうちの部内で渡瀬くんの人気は凄いからね。綾城さんもそうなのかなって」

そうだとしても、分かるもんなあ。彼、イケメンだし。

そう言って笑う砂本さんは、でも落ち着いていた。グラスを置いて手を組んだ砂本が千秋を見る。

やさしい目が安心できる。それくらいにさっきの渡瀬の視線は怖かった。子供が怖い夢を見たからと言って母親に慰めてもらうような安堵感を、千秋は求めていた。

渡瀬が怖いと思う。でも一番怖いのは、自分が分からなくなることだ。

……さっき、渡瀬の言葉に口を開き掛けて、自分は一体、なんて応えようとしていたのだろう?
< 55 / 153 >

この作品をシェア

pagetop