空を舞う金魚
(嫌って、何? 何が、嫌なんだろう……)
千秋は渡瀬に何も返事をしていないから、渡瀬がどんな女の人と一緒に居ても文句を言える立場じゃない。そう考えると、どこか諦めのような気持ちが湧いてきて、これ以上気持ちを乱さないで欲しいと思う。
淡々とお茶汲みをやって来たように、淡々と時を過ごしていきたい。滝川と他愛のないおしゃべりを楽しんだように、時々小さな幸せがあればいい。こんな風に感情の振り子が大きく触れることを、千秋は望まない。
地味な砂の中の魚のように、じっと水槽の底で生きていく。ひらひらと尾ひれを揺らして泳ぐ金魚の渡瀬とは、住む世界が違うのだ。
ぎゅっと手を握る。滝川が千秋の様子に気付いて、どうしたの、と声を掛けてくれる。
「い、いえ……」
なんでもありません。そう言おうと思った時に、ホテルの入り口を潜ろうとしていた渡瀬が、こちらに気が付いて声を掛けてきた。
「あれ、滝川さんと綾城さんじゃない」
渡瀬の呼びかけに滝川が応じる。渡瀬の隣の植山が、千秋を見たような気がした。
「あれー、渡瀬くん。どうしてこんなところに。……あ、デート?」
千秋は渡瀬に何も返事をしていないから、渡瀬がどんな女の人と一緒に居ても文句を言える立場じゃない。そう考えると、どこか諦めのような気持ちが湧いてきて、これ以上気持ちを乱さないで欲しいと思う。
淡々とお茶汲みをやって来たように、淡々と時を過ごしていきたい。滝川と他愛のないおしゃべりを楽しんだように、時々小さな幸せがあればいい。こんな風に感情の振り子が大きく触れることを、千秋は望まない。
地味な砂の中の魚のように、じっと水槽の底で生きていく。ひらひらと尾ひれを揺らして泳ぐ金魚の渡瀬とは、住む世界が違うのだ。
ぎゅっと手を握る。滝川が千秋の様子に気付いて、どうしたの、と声を掛けてくれる。
「い、いえ……」
なんでもありません。そう言おうと思った時に、ホテルの入り口を潜ろうとしていた渡瀬が、こちらに気が付いて声を掛けてきた。
「あれ、滝川さんと綾城さんじゃない」
渡瀬の呼びかけに滝川が応じる。渡瀬の隣の植山が、千秋を見たような気がした。
「あれー、渡瀬くん。どうしてこんなところに。……あ、デート?」