空を舞う金魚
何故千秋が残業すると思ったのだろう。そう思っていると渡瀬が千秋のサブバッグから少し顔を見せているカーディガンを指差した。
「夜遅くなるんだったら、駅まで送るよ?」
そうか。カーディガン、イコール夜遅い、を残業だと勘違いさせてしまったのか。親切心にどう返していいか迷っていたところ、渡瀬が察したらしかった。
「……ああ、デートか」
少し、トーンを落とした声。その音の差に、びくり、と肩を震わせてしまった。顔が俯いてしまう。
「……あの、……」
「いいなあ、砂本さん。……俺にもそういう機会が恵まれませんかね?」
ねえ? 綾城さん?
そう言って俯いた千秋のことを窺い見てくる。獲物を逃(のが)さない獣のような目に怯んで、何も言えなかった。