偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
その後の業務をどうこなしたのか、正直記憶にない。

ただ機械的に手を動かし、いつも通りの仕事を、感情を殺してひたすら取り組んでいたように思う。

渚だけは私の変化に気づいていたのだろう。

同僚から事の次第を聞いていたようで、できるだけそばにいてフォローをし続けてくれていた。



短い休憩時間の合間に、ロッカールームで上田さんとの会話を伝えると私以上に憤慨していた。


「気にする必要ないわよ。ただのやっかみでしょ。自分が選ばれなかったゆえの嫉妬よ」


「そう、なのかな……」


「気弱になっちゃダメよ。藍が信じるべきは栗本副社長でしょ。婚約破棄の本当の理由なんて当事者にしかわからないんだから。興味本位で尋ねるものじゃないけど、藍には聞く権利があるでしょ」


親友が語気を強める。


「……私ってそんなに白坂さんに似てるのね」


「それだけの理由で結婚しないわよ」


「普通ならね。でもそこに会社の事業が関わっていたら?」


私の指摘に渚は渋面を浮かべる。

心優しい親友の気持ちが痛いほど伝わってくる。

私たちの結婚の始まりは、恋愛ではなかった。

条件の一致と利益がスタートだった。


それなのに私はあの人に恋をしてしまった。

恋心なんて邪魔でしかないのに。

冷静さを失ってしまうとわかっていても、彼に惹かれる気持ちを止められなかった。
< 128 / 208 >

この作品をシェア

pagetop