偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「会社のつながりは気にしなくていいから、藍ちゃんが嫌なら婚約破棄しなさい」


広いリビングに通され、ソファに腰を下ろした途端、蘭子さんはきっぱりと言い切った。

貴臣くんは車を駐車してくると言って外に出ている。

ちなみにひとり娘の明日香(あすか)ちゃんは今日、お友達の家にお泊りしているそうだ。

旦那様はまだ帰宅されていない。

白い革張りのソファの前に置かれたセンターテーブルから紅茶の香りが漂っている。

落ち着いた温かな空間に、こらえていた涙と感情が決壊しそうになる。


「大体の話は貴臣から聞いてるわ。ここには私たちふたりだけだし好きなだけ泣きなさい。そもそも藍ちゃんは我慢しすぎよ」


優しい声に情けない嗚咽がもれた。


「釣り合わないって、わかっていたんです。こんな物語みたいな出会いなんて、結婚なんてあるわけがないって」


「あら、どうして? どこで恋に落ちるかなんて誰にもわからないわ。恋は魔法みたいなものよ」


「私に魔法はかからなかったんです……白坂さんにはかなわなかった」


膝の上に重ねた両手に涙の雫が落ちる。

あんなに泣いたのに、まだ涙は溢れてくる。

自分を憐れんでいるわけでもないし、彼を想って泣くのはもうやめたいのに、心が悲鳴を上げるのを止められない。
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