偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「以前、女性たちをうまくあしらっていたから、栗本副社長は女性の扱いに慣れていると思っていたのよ。まあでも、あなたたちは根本がすれ違っていたから仕方ないのかしら?」


「根本?」


話の展開がよくわからず首を傾げると、蘭子さんが意外そうに瞬きを繰り返す。


「ふたりの最初の出会いの話よ。まさかまだ聞いていないの?」


「ホテルのタクシー乗り場で出会った件ですか?」


ズズッと鼻をすすりながら返答すると、蘭子さんはこめかみを押さえた。


「嘘でしょ……まったく貴臣といい、本当に私の周囲には似たもの同士の男ばっかりね」


「あの?」


「藍ちゃん、もう一度栗本副社長と全部をさらけ出して話しなさい。彼が好きなんでしょう?」


直球を投げられて思わずうなずく。


「一番好きな人になぜ嘘をつくの? 夫婦になりたいくらい好きな人なんでしょう? 情けないところも恥ずかしいところもカッコ悪いところも見せられなくてどうするの」


「……でも」


「恋愛は甘くて素敵なことばかりじゃないの。つらく悲しい現実に直面するときだってある。自分の心情ひとつ晒せなくて、心からの信頼関係が築ける?」


蘭子さんの言葉が心に響く。

人生の先輩は本当にカッコいい。


「なにより、我を忘れて泣き叫ぶくらいに好きな人に出会えるなんてとても幸運だと思うわ」


「……でも私、酷い言い方をしてしまいました」


あんなにも優しい人を拒絶した。

数時間前の悲しそうな目が蘇る。


散々傷つけた私に話をする資格があるだろうか。
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