偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
そこにいたのは櫂人さんだった。


「あら、貴臣ったら折れたのね」


「……俺では藍を幸せにできないからな」


なぜか仏頂面の貴臣くんが、櫂人さんの後ろから返答する。


「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません。きちんと藍にすべてを話します。藍、泣かせてごめん。もう一度きちんと話したいから、一緒に帰ってくれないか?」


そう言って彼はゆっくりと私に手を差し出す。

その手がほんの少し震えているように見えたのは気のせいだろうか?

返事をしなければいけないのに、うまく声が出ない。

代わりに私はその手をギュッと握り返してうなずいた。

いつも温かい彼の指は今、少しひんやりとしている。

櫂人さんは安堵したように少し頬を緩める。

触れた指の感触に胸がいっぱいになる。


「藍、今度泣かされたら俺がお前の夫になるから安心しろ」


「絶対にありえません。彼女は俺のものです」


臆面もなく言い切る櫂人さんの姿に目を見開く。


「それならもう泣かすなよ」


「もちろんです。申し訳ございませんでした」


「あの、社長、貴臣くん、心配してくださってありがとうございます。きちんと櫂人さんと話します」


「そうね、落ち着いたら報告してちょうだい」


そう言って是枝姉弟は私たちを見送ってくれた。
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