偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍、乗って」


櫂人さんに促されて、見慣れた車の助手席に座る。

彼は滑らかに車を発進させた。

貴臣くんや櫂人さんに送迎ばかりしてもらって、本当に申し訳ない。

すっかり夜の帳がおりた道を運転する婚約者の姿を横目で眺める。

車内ではお互いに無言だったが、このままではこれまでとなにも変わらないと意を決して口を開く。


「なんで私がここにいるってわかったの?」


「是枝さんから連絡をもらった」


「貴臣くんから?」


「ああ、お前の状態や想いを説明して、俺にチャンスをくれた」


彼の返答に、車中での貴臣くんの不可解な行動を思い出す。

きっと貴臣くんは私の隠した想いを察していたのだろう。


「たくさん泣かせてごめん。でもこれだけは信じてほしい……俺はお前を心から愛している」


一瞬、呼吸が止まった気がした。

言われた言葉が現実とは思えなくて、何度も瞬きを繰り返す。


「本気……?」


「もちろん。俺は藍だけを愛している。一生をともに歩きたい人は藍しかいない」


言いたいことも、聞きたい出来事もたくさんあったはずなのに、頭の中から色々なものが消え去っていた。

ただ目の前にいるこの人が愛しくて、向けてくれる気持ちが嬉しくて涙が零れ落ちた。
< 191 / 208 >

この作品をシェア

pagetop