偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍、泣くな。ああ、言うタイミングを間違えた。運転しているから抱きしめられないし、どうしたらいいかわからない」


顔が見たいのに、と怒ったように告げる彼の姿に一瞬涙が引っ込む。


「フフ」


拗ねたような、困った表情がどこか可愛らしくて思わず声が漏れる。


「笑うなよ、どうしたらお前を失わずにいられるかってこっちは必死なんだ」


「ごめんなさい。なんだか嬉しくて」


「なにが?」


不思議そうな彼の反応に素直な気持ちを伝える。


「やっと櫂人さんの本音に近づいた気がしたの。私の知っている櫂人さんは常に冷静沈着で完璧だったから。照れたり困ったり、カッコ悪いって嘆いてくれる姿をやっと見せてくれた」


「……ずっとカッコつけていたからな。年上だし」


「そんなの関係ない。ずっと一緒にいるんだからどんな櫂人さんも見せてほしいし、些細な出来事も可能な限りなんでも話し合いたいの」


私の希望に前方を見つめながら櫂人さんが確認するかのように尋ねる。


「藍はそれでいいのか?」


「もちろん」


「わかった」


それから車内で、たくさんの話をした。

私たちは勝手に相手の気持ちを推し量って空回りばかりを繰り返していたのだと知った。
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