偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「子どもじゃないのだから、綾はこの一件の責任はとるべきだ。もし藍と取り返しのつかない事態になっていたらと思うと俺はそう易々と許せない」


「櫂人さんの気持ちはわかるし、怒ってくれるのも嬉しい。だけどもういいの」


「……本当にお前はお人好しで、懐が深くてかなわない」


困ったようにそう言って、櫂人さんは私の瞼に小さくキスを落とす。


「他ならぬ婚約者には逆らえないから、意思は尊重する。でも上田家への抗議と俺たちには今後接触しないよう厳命するのは譲らないからな」


「……うん、ありがとう」


「まったく、お前のその無自覚の魅力はどうにかしてくれ。最初に惹かれた俺がかなうはずがないのに」


「え?」


「……俺が初めてお前に出会ったのは、栗本ホテルじゃない」


端的に告げた彼が、再び車を発進させる。

それは幾度なくどこかで聞いた台詞。

でもずっとその真相はわからなかった。


「いい加減にこの話をきちんとしろと白坂さんに叱られた」


「白坂さんは知っているの?」


商業施設で偶然出会った白坂さんの、心配そうな表情を思い出す。

彼女は櫂人さんに電話をし、ハッパをかけてくれたらしい。

箱入り令嬢だと思っていた白坂さんが誰よりも強気でしっかりしていて、女性は本当に侮れないと言いながら電話の内容を教えてくれたのはつい数分前だ。

< 194 / 208 >

この作品をシェア

pagetop